2013/4 – 2017/3 浅井亜紀子 会長

asai

 

 

 

 

会員の皆様へ

会員の皆様、こんにちは。このたび、異文化コミュニケーション学会(SIETAR JAPAN)の会長に就任することになりました浅井亜紀子と申します。2006年度から2年間会員関係委員長を務め、2009年度から2012年度まで町惠理子会長の補佐として運営に務めて参りました。

私の異文化コミュニケーションの歩みをふりかえると、SIETAR JAPANとの関連なしには考えられません。大学卒業後勤務していた富士ゼロックスで、異文化トレーニングを受けたのが異文化コミュニケーションとの出会いでした。英米文学科を出て社内の翻訳を担う中、アメリカ人のネイティブから「英語ではそう表現しない」といわれる毎日でした。言語をそのまま訳していても伝わらないのです。翻訳の壁にぶつかっていたときに、富士ゼロックスの海外駐在員のための異文化トレーニングを受け衝撃を受けました。異文化トレーニングの先駆者の一人のダイアン・ホフナー・サファイア氏らによるワークショップでしたが、まず対話や体験を重視した参加型スタイルに驚きました。そしてコミュニケーションは言語だけでなく文化の影響を考えなければならないと学んだときは目から鱗でした。コミュニケーションと文化をテーマに勉強したいという思いは強まり、SIETAR JAPANの設立者の一人である荒木晶子先生の助言を得て1988年から1990年までアメリカサンフランシスコ州立大学に留学、バーンランド教授のもと学びました。帰国して林吉郎先生が会長務めるSIETARでプログラムを担当させていただき、青山学院の林研究室でSC (Steering Committee: 運営委員) 会議を持っていたことをなつかしく思い出します。その後、子育てでしばらくSIETARを離れていましたが、その間に、SIETARは異文化コミュニケーション学会として生まれ変わりました。

私が2000年から社会人としてお茶の水女子大学の博士課程で学び、学問のパラダイムシフトと共に文化の捉え方や研究方法が大きく変わりつつあること知りました。従来は、文化を一様なものとして想定し文化の特徴を明らかにしたり、比較したりする研究が主流でした。しかし、それではグローバリゼーションの進行による文化内の多様性や複雑性や変化の現実を軽視することになるという警告が発せられました。またアメリカを中心とするコミュニケーション学は、西欧の理論枠組みが中心になっており、アジアなどそれ以外の地域からの理論提唱の必要性も訴えられるようになりました。しかし、文化やコミュニケーションの捉え方が変化していても、異文化コミュニケーションの重要性はますます増しています。むしろ、社会の変化と共に、異文化コミュニケーション学会の進むべき方向性も再定義を求められていると考えるべきでしょう。

私は異文化コミュニケーション学会に求められている使命は少なくとも3つあると認識しています。一つは、異文化コミュニケーションの理解を現場中心の中で進め、問題解決を促していくことです。「現場中心」の理解というのは、現場で起こっている現象や問題を、コンテキストの中で忠実に理解しようと努めることです。既存の理論や概念を使うことも重要かつ効率的でありますが、時として理解のしかたを歪めてしまう恐れがあります。本当の異文化の問題解決には現実に忠実に向かいあうことが大事だと思います。

第二に、歴史や社会システムといったマクロレベルの文化への影響の理解を深めることです。大学生に異文化コミュニケーションを教えていて痛感させられるのが、日本や諸外国の歴史についての理解が驚くほど浅いということです。日本の歴史とくにアジア諸国の歴史教育の弱さは異文化間理解の重大な欠陥だと思います。異文化の人を理解するということは、習慣や価値観の違いだけでなく、その人々が生まれた国の歴史や国際情勢といったより広い視野からの理解が必要だと思います。

第三の使命は、異文化の人と今同じ時代に同じ地球という空間に住んでいること、互に協力をしてこそサバイバルでき、共に未来をつくっていけるという「地球市民」としての意識の向上に貢献していくことです。異なる文化への気づきと、地球市民としての意識向上と、どちらをどのように教育していくかということを考えていく必要があると思います。

異文化コミュニケーション学会の強みは、異文化に関する理論的探求に加えて、それを教育や仕事に生かす実践についての豊かな情報交換の場となっていることです。この強みを生かしながら、SIETAR JAPANが異文化コミュニケーション領域の問題解決に貢献できることを願っています。そのために、私自身も全力で、SCのメンバー、会員の方々、そして、学会外の関心を同じくする人たちとのコミュニケーションを図り、目標達成のための努力をしていきたいと思います。皆様のご支援とご協力をどうぞよろしくお願い致します。

浅井亜紀子 異文化コミュニケーション学会会長